のれんの費用計上検討に関する日経新聞記事に関して~まずは減価償却とか減損とかから始まって基本解説してみます~

経理

M&A、費用計上の義務化検討 国際会計基準という記事が日経電子版に掲載されました。割と大きな話題になるのではないかと思います。

M&A「のれん」費用計上の義務化検討 国際会計基準  :日本経済新聞
国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手したことが明らかになった。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」と呼ぶ部分に

この記事タイトルは「M&Aの費用計上の義務化」ということですが、実際の内容としては、M&Aにおける「のれん」というものに対して「減価償却費」という費用を計上するのを義務付け、また「減損損失」の処理について考え方を変えてみようかと検討しているという内容です。


今回の記事ではこの「のれん」というのもですが、その前に費用計上だとか減価償却とか減損損失とかいう事について、そもそもそれって何かという事を、私なりの言葉で説明していきます。したがって、本格的な会計議論とかは全然しませんし、完全に初心者の方とかが対象です。

まず「減価償却費」について

減価償却費って?

減価償却というのを聞いたことぐらいあるという人が多いと思いますが、その意味についてどう考えているでしょうか?
前提として減価償却は、「固定資産」つまり何年かの長期間にわたって使う、機械等の物について実施する処理です。

で、その固定資産を何年も時間をかけて使う内に、古くなったり摩耗したりしていく部分を数値化したものが減価償却だと、漠然と考えておられる方も多いのではないでしょうか。
その考え方で決して間違いではありません。しかし、経営者みたいな立場で、会社の利益とかを考えていくにあたっては、ちょっと別の考え方を覚えておく方が良いでしょう。

例題

あなたが効率的な売上のため、例えば6千万円の機械(固定資産)を買ったとします。その機械は5年使えて、それのおかげで寝てるだけで売上が月間150万円出せる計算だとします(面倒なので、経費とかは一切考えず、売上だけが発生していくとします)。

さて、初月はその機械6千万円を買って売上150万円なわけですが、
売上150万で費用6千万だ、差額の△5,850万円が初月のモロ赤字だ
として良いのでしょうか?

それじゃいかん。その機械は5年という長期間にわたって使うのだから、費用についても5年間にわたって見ていかなければというのが、減価償却です。実際、最初の計算だと、初月ばかりが△5,850万円の大赤字で、2ヶ月目以降が150万/月の黒字という奇妙な計算になりますよね。

そこで機械の代金6千万円を5年=60ヶ月で割って、1ヵ月あたりの費用=減価償却費は100万円だと計算するわけです。これなら毎月150万円−100万円=50万円の利益が均等に出ている計算になりますね。

その他、固定資産と減価償却の処理について

この例では5年間という期間を例に挙げましたが、こういう固定資産なら期間は何年だという耐用年数ってのが、資産の種類ごとに決められています。正直、経理の実務をやっている側としては、その判定に迷うことも結構あるので、そんなの正確に決めきれるのかよという感じですけどね。

ちなみに極端な話、3千円など安い椅子とかの中にも、何年も使えるようなものもあるわけですが、そんなのまでこの減価償却の考え方に当てはめるわけがありません。
ですから減価償却をする物には基準があって、最低でも10万円以上ですね。10万円に満たない物は、買ったその月に費用にしてしまうことになります。

なのでこれまた極端な話、9万円の品物を細かく幾つも買ってたりしたら、買った初月の費用ばっかりめちゃくちゃ膨らむことになり得ます。その辺のことを、簿記試験でも扱えよと思いますけどね。

減損損失、減損

さてこの6千万円の機械ですが、5年間トータルで6千万円より少ない売上しか出せないと最初から考えて、機械を買うことはないでしょう。それでは商売になりません。
6千万円を大きく超える売上を産むだろうと想定したからこそ、機械を買ったわけで、だからこそ上記のような減価償却という会計処理も認められているわけです。

では商売が思っていたより全然上手くいかなくて、6千万円の機械を買ったのに全然見合わない売上しか出せず、お金を稼げてなかったならどうなるか。もうその時は、1ヶ月に100万円ずつなんて悠長な(?)処理は認められなくなります。

たとえば機械の購入から10ヶ月後は、減価償却したのは100万円×10ヶ月=1千万円です。
このとき、機械の金額の残りは、計算上として6千万-1千万=5千万円(この計算上で残ってる額を帳簿価額とかいいます)

ここで、あんたの所の商売は全く話にならないと判断されたら、残った5千万円を、何ヶ月も掛けて分割して費用にするんじゃなく、一気に5千万円の費用にしてしまおうという処理が考えられます。
いやまあ5千万円全部とは限らず3千万円だけだったりもしますけど、分割払いじゃ駄目だから一括払いせんかいというわけですね。これが減損損失とか減損とか呼ばれる処理です。

商売が話にならないとかの判断基準は難しいですし、会計士と喧嘩議論になったりしますが、この辺はもう専門的すぎるので省略します。東芝とかも、これを計上するかしないかで問題になったわけですね。

いよいよ「のれん」について

さてここまで書きましたが、こうなると減価償却だとか減損損失だとかいうのは、機械みたいに決まった形があって見るからに摩耗し古くなっていくものにだけ適用するってのはナンセンスと、何となく想像してもらえると思います。
固定資産には無形固定資産というのもあるのですが、例えばものすごい値段のするソフトウェアなんかは、形のある物体じゃなくて電子上のものであるにも関わらず、固定資産と扱われ減価償却をしていきます。
これと同じように、「のれん」というものは、形はありませんが減価償却をしていきます。

さて「のれん」とは、企業を買収したときの買収価格と、買収された企業自身の価値との差額です。
企業の価値というのは、まあ純資産というものなのですが、例えば純資産100億円の企業を、それより高い180億円を出して買ったなら、差の80億円を「のれん」と呼ぶわけです。
純資産100億円の企業を、それより安い80億円で買うこともあり得るわけですが、その場合は差の20億円のことは「負ののれん」と呼ばれます。

日本の会計基準とIFRS

さて、のれんが80億円だった場合。のれんは固定資産とみなすので、この80億円を20年以内の期間で減価償却していく、場合によっては減損損失もするという会計処理が行われています。ただしこれは日本の会計基準での話です。

会計基準には日本の会計基準以外に、IFRS(国際財務報告基準)というものがあって、聞いたことぐらいはあるという人も多いかと思います。
このIFRSにおいては、のれんを減価償却することが現在では行われていません。そのかわり、減損損失を実施するかどうかの検討を、日本基準よりも細かくやかましく行っています。
いや私も勉強不足ですし、私の会社でIFRSが採用されているわけでもないので、聞きかじりの話でしかないのですけどね。

今回の記事で、M&Aの費用計上義務付けという言葉で語られていますが、これは「のれん」をIFRSにおいても減価償却するのを義務付けようじゃないかという議論ですね。
そのかわり、減損損失をするかどうかについては、今ほどやかましく問いはしないということになります。

のれんを減価償却しない、費用計上しないという事は、それだけ損益計算書の上で損失が発生しないということであり、それを狙ってIFRSを採用している日本企業もあると記事でも書かれています。M&Aをよくやっている、ソフトバンクなどがその代表だという事ですね。

最後に。費用に計上するということについて

最後に。「なんじゃそりゃ。なんか金を出して、企業を180億円かけて買収しただの差額が80億円発生しただの言ってたじゃないか。減価償却費に計上するかどうかとかごちゃごちゃ屁理屈を並べても、その差額80億円という事実はあるんだから、それが費用としてみなされないって何のことだ」と思われるかもしれません。
この辺が、会計のちょっと難しいところなのですけどね。

まず「のれん」は貸借対照表という帳簿のもので、「売上」とか「減価償却費」とか「減損損失」は損益計算書という帳簿のものです。
で、一般に利益とか損失とか言ってるのは、損益計算書の方に計上されるものだけのことを言ってて、貸借対照表の方に計上されてるものについての話ではありません。損益計算書とは企業の成績書だとか言われますが、その通り、企業の出来・成績を測定する第一の数値が、この損益計算書に記載された数値だという事です。

ですから、のれんを減価償却しない現行IFRSでは、のれんという貸借対照表の世界のものだけが発生していて、減価償却費や減損損失という損益計算書の世界が発生していない→利益や損失という中での、損失というものは発生してない扱いだと思って良いわけです。
(勘違いしないようにですが、貸借対照表が要らない子だと言ってるわけじゃありません。まあ半端な会計スキルしかない人は、貸借対照表を要らない子扱いしちゃって、それで本質を見失ってしまうんですけどね。)

これでも分かりにくいと思いますので、ゲームに例えますけど、まず売上とかいうのは、ゲームで叩き出したスコアだと思ってください。
そして損益計算書に出てくる「費用」というのは、ゲームにおけるゲームのスコアのマイナス要因だとでも考えてください。

あなたがゲームのスコアで100万点をたたき出したとして、でもそこからペナルティーとかでガンガン数値を差し引いていくとしますよね。
例えば100万点をたたき出すために180万円かけてガチャを引いてたとしたら、そんなもんは100万点から差し引いて最終スコア△80万点だって考え方があるかもしれません。

でも現行IFRSでは、そうはしてないわけです。ガチャのために引いたお金(のれん)なんていうのはひとまず、点数(利益)の議論からはおいとくわけです。このガチャに費やした現金が貸借対照表の世界で、損益計算書で競っているもの、最大目標はゲームのスコアなのだというように思っていただければ良いかと思います。